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約6割の世帯に子ども無く、人生は正真正銘90年時代

男女共同参画白書が語る「変容」した日本の姿

朝倉 継道朝倉 継道

2022/07/15

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イメージ/©︎paylessimages・123RF

あたりまえだが「もはや昭和ではない」

先月14日、内閣府男女共同参画局が、「令和4年版 男女共同参画白書」の閣議決定を得て、これを公表している。

本文冒頭部分にはこんな言葉が掲げられた。「もはや昭和ではない」——。

続く一文をそのまま紹介しよう。

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昭和の時代、多く見られたサラリーマンの夫と専業主婦の妻と子供、または高齢の両親と同居している夫婦と子供という3世代同居は減少し、単独世帯が男女全年齢層で増加している。 

人生100年時代、結婚せずに独身でいる人、結婚後、離婚する人、離婚後、再婚する人、結婚(法律婚)という形を取らずに家族を持つ人、親と暮らす人、配偶者や親を看取った後ひとり暮らしをする人等、様々であり、一人ひとりの人生も長い歳月の中でさまざまな姿をたどっている。

このように家族の姿は変化し、人生は多様化しており、こうした変化・多様化に対応した制度設計や政策が求められている。

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実にそのとおりで、基本、文句のつけどころがない。

ここに書かれた(人生の)変化・多様化に対応した制度設計や政策を速やかに実現していかなければ、それはおそらく多くの国民生活を疲弊させ、ひいては国の足腰を立たなくしてしまうほどの結果になりかねない。 

古い経済白書(1956年度)の「もはや戦後ではない」をもじったものとはいえ、多少話題にもなっている名言(?)を生んだ今回の男女共同参画白書から、興味深い内容をいくつか紹介したい。

日本の世帯の約6割は子どものいない世帯

今回の男女共同参画白書が採り上げているなかで、「もはや昭和ではない」を象徴的に表しているデータを紹介しよう。なお、この数字はすでに昨年発表の国勢調査で明らかになっているものだが(令和2年国勢調査「人口等基本集計」)、男女共同参画白書があらためてわが国社会の現状として掲げている。


出典/男女共同参画白書「特集」人生100年時代における結婚と家族 〜家族の姿の変化と課題にどう向き合うか〜

上記を見てのとおり、現在日本の「家族の姿」としては単独世帯の割合が最大で、38.0%=約4割を示している。そこで40年前の昭和55年(1980)を振り返ると、単独世帯の割合は19.8%で約2割、順位としては「夫婦と子供」「3世代等」に続く3番目となっている。

一方、単独世帯の増加と並んで変化が劇的なのが「3世代等」となる。昭和55年には19.9%=約2割だったものが、令和2年には7.7%に減少、いわば希少種となった。

のみならず、子どものいる核家族も割合を大きく減らしている。昭和55年では「夫婦と子供」世帯は42.1%で圧倒的な1位。「ひとり親と子供」の5.7%を合わせると47.8%=5割近くにのぼっていたが、令和2年のデータでは両者合計で34.0%に留まっている。

とどのつまり、子どもがいる家庭の割合は……

昭和55年(1980) 67.7%
令和2年(2020) 41.7%

子どもがいない家庭は……

昭和55年(1980) 32.3%
令和2年(2020) 58.0%

このとおり、子どものいる家庭はいまや少数派だ。昭和の終わりと平成の約30年を挟んだこの間に生じた社会の変化がよく見てとれる。

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平均寿命に惑わされてはいけない? 我々はもっと長く生きてしまう

白書の中ではコラムにまとめられているため、この部分、見過ごされることもあるかもしれない。現在、女性87.71歳 男性81.56歳が確定値となっている(厚生労働省「第23回生命表」)日本人の平均寿命についての話だ。

平均寿命は、日本人が死亡するいわば標準的な年齢として理解されやすい。しかしながら現実はそうとはいえない。今回の男女共同参画白書では、「平均寿命=平均値」とは別に、日本人の寿命における「最頻値」も紹介されている。両者の違いを指摘することで、現代日本人が生きる老後という時間の長さをある意味深刻に語るかたちだ。


出典/男女共同参画白書「特集」人生100年時代における結婚と家族 〜家族の姿の変化と課題にどう向き合うか〜

ちなみに、最頻値とはそれが起こる頻度が最も高い値のことをいう。人の寿命でいえば、その死がもっとも多く生じる年齢=「死亡年齢最頻値」を指す。

上の図(グラフ)のとおりだ。女性の平均寿命はさきほど挙げたとおり87.71歳だが、最頻値は93歳となっている。差は約5歳分となる。一方、男性の場合は平均寿命が81.56歳、最頻値は88歳で、差は約6歳分だ。

となると、結論は単純。いま現在多くの日本人は平均寿命をかなり超えてさらに生き続ける。あるいは生き続けている。すなわち、わが国は目下正真正銘「人生90年時代」の渦中にあり、間もなく「100年時代」が訪れる可能性も低くはないというのが実態だ。

そのうえで、既存のさまざまな制度や認識が示すとおり、「65歳からが高齢者」であるとすれば、いわゆる老後は25年程度にもおよぶことになる。25年=四半世紀だ。このきわめて長い時間をはたしていまのまま「老後」と規定し続けてよいのか。年金にせよ、官・民の定年制度にせよ、こうした現実に即した制度設計や政策の実行がまさに急務となる。

女性配偶者の就業調整は手厚い保護の成果か、抑圧が生むものか?

こちらは議論も呼ぶところだろう。逆に白書はそれを期待しているのかもしれない。加えて、この部分は「男女共同参画」を掲げる当白書の眼目たるひとつでもある。引用しよう。

「——税制、社会保障制度、企業の配偶者手当といった制度・慣行が、女性を専業主婦、または妻は働くとしても家計の補助というモデルの枠内にとどめている一因ではないかと考えられる」

ここで白書が指摘の対象に挙げているのは、「正規雇用・終身雇用の男性労働者と専業主婦、そして子ども」という、昭和の核家族をモデルとした制度設計だ。具体的には、働く夫が配偶者控除を受けたり、会社から家族手当を貰ったりするため、妻がわざわざ年収が上がらないように仕事を“やりくり”するといった、いわゆる就業調整を問題視している。さらに引用しよう——

「この就業調整が、女性の所得が低い要因の一つとなっており、有業の既婚女性の約6割は、年間所得が200万円未満である」

就業調整が女性の所得の伸びを抑えている——ひいては女性が本来もつ力を社会参画させる度合いをも低めてしまっている旨、白書は主張したいようである。 

もっとも、一方では就業調整を生むような、昭和的手厚い制度・慣行が、いまも(いまの時代だからこそ)生活の重要なよすがとなっている家庭もおそらく少なくない。

また、そうした立場の多くにあっては、現在も、また近い将来も、子育てという社会的に重要なプロジェクトを担う存在である可能性も低くはないはずだ。

「議論も呼ぶところだろう」というのはそのためだ。「この白書からは、将来、配偶者福祉的な制度を官民併せて無くしていきたいとの国の意図が感じられる」と、穿つ意見も少なくないだろう。 

とはいえ、白書は法律ではない。行政から国民への報告であり、提言にすぎないものだ。国民がこれを叩き台にさまざまなことを考え、意見をたたかわせることは、当然ながら健全かつ当たり前のこととなる。

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この記事を書いた人

コミュニティみらい研究所 代表

小樽商業高校卒。国土交通省(旧運輸省)を経て、株式会社リクルート住宅情報事業部(現SUUMO)へ。在社中より執筆活動を開始。独立後、リクルート住宅総合研究所客員研究員など。2017年まで自ら宅建業も経営。戦前築のアパートの住み込み管理人の息子として育った。「賃貸住宅に暮らす人の幸せを増やすことは、国全体の幸福につながる」と信じている。令和改元を期に、憧れの街だった埼玉県川越市に転居。

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